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講演会
【ご報告】第11回クリオネセミナー
環境に貢献するデジタル印刷の役割

クリオネセミナーで考え方を学ぶ
松浦会長 挨拶松浦会長 挨拶

環境保護印刷推進協議会では平成27年11月27日午後、東京・神田小川町の明治大学「紫紺館」で、「【環境】に貢献する【デジタル印刷】―技術とマーケティングからみた、その役割」をテーマとした第11回・クリオネセミナーを開催した。会員企業ならびに印刷関係者ら約70名が聴講し、有識者による基調講演とベンダ―企業による事例発表を通して、理論的な捉え方と実際面での活かし方を学んだ。

今回のクリオネセミナーは、デジタル印刷システムが今後より一層、普及するためには、新たなビジネスモデルを模索すると同時に、環境に配慮することが不可欠な課題になるとの確信のもと企画したもの。「デジタル印刷認証制度」を策定している当協議会の姿勢を改めて確認するとともに、制度の積極的な推進をはかりたいという意味合いも込めて開催した。

この日のセミナーでは、第Ⅰ部の基調講演で「環境に貢献する【デジタル印刷】」を演題に、技術とマーケティングの両面からみたデジタル印刷の役割について、斯界の専門家でありコンサルタントでもある亀井雅彦氏(一般社団法人PODi代表理事)から、理論的な解説を聞くことができた。

亀井講師は、デジタル印刷を必要とする社会的潮流、パッケージを例にとったグリーンマーケティングの発展状況、アメリカにおける商業印刷の勝利の方程式を紹介するとともに、①ターゲティング②オンデマンド③ディストリビューテッド――の三つの観点からデジタル印刷のメリットを解説した。亀井氏は講演のまとめとして「デジタル印刷システムをウエブ・トゥ・プリントのかたちでインライン化することにより、前工程のコンテンツ処理と後工程のフルフィルメントで、大きな付加価値を得ることができる。そうすることが環境への貢献策にもなる」と強調した。

また、第Ⅱ部の事例発表は「わが社が考える【環境】と【デジタル印刷】の関係」をテーマに、スピーカーとして協賛会員4社(コダック合同会社の飯田厚氏、コニカミノルタ(株)の藤井律雄氏、(株)メディアテクノロジージャパンの佐々浦映展氏、富士ゼロックス(株)の藤田伸郎氏)を招き、パネルディスカッション形式で話を進めた。コーディネータ役は亀井氏が担った。そのなかで、環境貢献という視点からデジタル印刷システムをどう活かしたらいいのかのヒントを得ることができた。

そこでは、技術とマーケティングの観点から、環境貢献をキーワードにデジタル印刷を営業ツールに育て、かつ《環境経営》の促進に役立てられるさまざまな切り口を提言してもらった。

基調講演の講演要旨および事例発表における主な発言内容は以下のとおり。

(文責編集部)

基調講演
対象顧客へのオンデマンド・分散印刷を強みに

大量生産・大量消費の時代が終わって、多種少量生産・消費の時代が到来し、同時に環境配慮、持続型社会への貢献に関する重要性が増している。そうした潮流のなか「ターゲットマーケティング」が重視されて、印刷物に求められる要素が変わりつつある。大量から少量へのカスタマイズ化、少量から個へのパーソナライズ化がそれである。また「環境」がマーケティングの軸となってきた。環境配慮型製品に象徴される「グリーンマーケティング」が発展してきて、開発からコミュニケーションに至るまでマーケティング視点で統合すべきときがきている。

先行しているパッケージを例にとると、インテリジェントパッケージという思想のもとで、包装というメディアに求められる価値が変わってきた。経済的で使いやすく、環境に優しく、しかもマスコミ受けもよくなければいけない。トレーサビリティーが顧客との相互作用を志向する主な開発軸となっている。環境配慮型パッケージでは、企業から消費者に対する「グリーンマーケティング」が浸透し、企業は環境配慮による付加価値を提供し、消費者はそれを商品選択の参考にするようになった。そこでは、製品の差別化戦略、ブランディング戦略、CSR戦略がおこなわれている。

拡大するターゲットを絞り込む「マイクロマーケティング」によって、小売業の差別化、顧客のセグメント化が進んでいることを受け、デジタル印刷は小ロット対応で「環境」に貢献し始めている。ラベル、紙器、軟包装の分野で浸透中である。

アメリカでは、オンラインでのマーケティングと販売が浸透したこともあって、印刷物は無駄だという認識が広がった。その結果、カタログの発行部数が減少していた。しかし、最近は復活の兆しを見せている。なぜ復活したのかというと、顧客セグメントごとに内容を一部変更して、別のカタログを低コストかつ容易に製作できる「バージョニング」が可能になったためである。Eメール・マーケティングやソーシャルネットワークを含むマルチチャンネルを、印刷物であるカタログと連動させることによって、カタログにターゲティングと成果測定という新たなダイナミズムが生まれたのである。ブランド体験を顧客に提供できるカタログは、今後も定着し続けるだろう。

デジタル印刷は、多品種小ロットニーズを対象に、ターゲットの細分化、パーソナル化、顧客データの管理を原動力にして、成長余地が大きいことがわかる。「ターゲットマーケティング」に伴い個々の商品の絶対量が減少し、印刷物もそれに合わせていく必要があるからだ。「環境マーケティング」も原動力の一つとなっている。

デジタル印刷には、商品在庫と物流の統合管理というフルフィルメントを提供できる利点もある。注文後に印刷する「オンデマントプリント」によるサプライチェーンへの寄与は大きい。紙の枚数ではなく、印刷物としての効果を売ることが可能になる。ページ数や部数を減らし、送料を削減することでコストダウンに寄与し、それでいて販促効果に優れ、売上げ向上を支援できる。

「ディストリビューテッドプリンティング」(分散印刷)による輸送、保管の減少効果も考えられる。作業の標準化とシステム化、データの集中管理と物理的作業の分散処理により、全国規模の多拠点で印刷できるという強みが、デジタル印刷にはある。

基調講演の模様

事例発表
「ワンストップサービス」に組み込むことが重要

亀井氏 初めに、環境保護のポイントを技術面からみた場合、どんなことが考えられるか?

コダック デジタル印刷システムを使用すると、①薬品、廃材が非常に少なくて済む、②どこにでも設置できる、③適材適所で印刷が可能になる――など多くの利点が考えられる。ハードウエアの面では、印刷部数を最適化する手法はほぼ確立されているので、データ管理にしっかり取り組めるようになれば、環境に貢献できる。

コニカミノルタ ヤレ紙やムダ紙の発生防止、取扱量の最小化、在庫スペースの縮小など、環境を意識して印刷機を製造している。とくに、人為的ミスによるムダな印刷物を出さないよう、起動後1枚目から満足できる画質を得られるよう、人が介在する部分をなくすための技術開発に取り組んでいる。顧客の要望に応じた後処理装置を印刷機にインラインで接続して、一気に最終の青果物が製作できるようになっている。

メディアテクノロジージャパン 中間工程をなくすことで、資材や在庫の削減を可能にしている。それにより、消費エネルギーとCO2発生も抑制できる。また、必要な部数を必要なだけオンデマンド印刷するので、廃棄印刷物を減らすことができ、間接的にCO2削減にもなる。環境保護のテーマに沿っており、それだけ環境貢献度が高い。

富士ゼロックス オフセット印刷とのハイブリッドワークフローにより、出力設定やカラーマネジメントを一括でおこなえる。その分、作業効率が向上し時間も大幅に短縮できる。管理を一元化することで、印刷データをシームレスに一貫管理できるというメリットが生まれる。デジタル印刷を利用しているため、省スペース、省エネ、ヤレ紙削減、在庫レスといった環境負荷の低減にも結びつく。

亀井氏 同じように、マーケティングの側面からみた場合はどうか?

コダック ムダなものをつくらないという社会的課題がある。ムダが発生しなければ、エネルギーを必要とするリサイクルは不要になる。ムダな印刷物を出さないよう、部数を最適化することが重要だと思う。そのためには、顧客のニーズに沿った本当に正しい部数を把握し、デジタル印刷を活かす方向でビジネス提案してほしい。第二次産業の製造業から第三次産業のサービス業へ業態を変革するには、メディアを提供する立場でビッグデータをきちっと分析して顧客を分類すること、それに相応しい情報を提供して顧客を囲い込むことが基本になる。ビッグデータ分析×デジタル印刷の仕組みをつくって、適切なマーケティングを提案する必要がある。ワントゥワンマーケティングを支える顧客のセグメンテーション方法を確立できれば、仕事が逆に増えて新たなビジネスチャンスが生まれると思う。

コニカミノルタ 印刷物を必要な場所に素早く届けるために、消費地生産を進めたい。顧客に一番近いところで分散印刷して、オンデマンド納品することが重要になる。デジタル印刷システムは設置性や購入コストの面で比較的優位という特徴があり、同じ品質をプリントできる複数台を各地に設置することが可能だ。消費地生産に最も適した印刷機であり、配送の効率化、物流に伴うCO2排出の削減という観点からも、マーケティング効果が狙える。難しいとされるコンテンツの管理レベルを高め、印刷会社の新しいビジネスモデルに寄与できる仕組みづくりに努力していきたい。

メディアテクノロジージャパン 市場の成熟化に伴い、多様なニーズを取り込むマスカスタマイゼーションへの対応が望まれており、効率的に対応する手法としてマーケティングオートメーションが考えられている。そのマーケティングオートメーションとデジタル印刷を連携させることで、マスカスタマイゼーション印刷が可能になる。ハイブリッドワークフローの活用により、例えばオンデマンド書籍などのプロモーションが実現できる。デジタル印刷の特性を活かしたビジネスモデル、マーケティングを含むビジネスモデルの創出のために、デジタル印刷の普及をはかりたい。

富士ゼロックス 必要なときに必要な部数を製作できるデジタル印刷は。在庫レスを可能にする。在庫管理を顧客とともにおこなえるという利点を訴求することで、マーケティング提案が有効になる。顧客の一人ひとりに最適な情報を提供できることがバリアブル印刷の特性である。幸い、ITとの親和性、連携性に優れている。見たい人に見たい印刷物を提供できるという強みをマーケティング提案すべきだと思う。そうすることが、そのまま顧客にとっての印刷メディアの価値向上となる。環境にもやさしいマーケティングツールとして積極的にアピールしてほしい。

事例発表の模様

更新日:2015年12月16日