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【ご報告】 2016年度 講演会
印刷会社が取り組むブランド戦略とは?

―特別講演会でブランディングの活かし方を学ぶ―

環境価値を一般社会や顧客に認めてもらうには、ブランディング活動によって環境に貢献している企業姿勢を明確に示す必要がありますが、それには、ブランディングに取り組むとどのような成果が得られるのかを知っておかなければなりません。

そこで環境保護印刷推進協議会では12月20日午後、東京・神田小川町の「明治大学紫紺館」で『印刷会社が取り組むブランド戦略とは?』をテーマに特別講演会を開催しました。先の定時総会に際し併催した記念講演会では、ブランディング活動によって環境貢献に関する評価を得ることの重要性を学びましたが、今回はこれをさらに発展させた第二弾として企画したものです。

講師には、一般財団法人ブランド・マネージャー認定協会の代表理事である岩本俊幸氏をお迎えし、自社の強みや優位性を顕在化するために、ブランド構築のステップを踏みながらブランディング活動を効果的に展開していく方法について、有意義な講演を聴くことができました。

また、Ⅱ部として「紙は環境にやさしい印刷素材です」を演題に、日本製紙連合会・常務理事の上河潔氏に、①環境保護を目的としている森林管理の考え方とは、②間伐材や端材を社会はどう捉えたらいいのか――を中心に話していただきました。紙は環境に悪いという誤解や、紙は森の減少につながるのかなどの疑問に、印刷会社としてしっかり対応できるよう理論武装しておくのが目的でした。

両講師による講演の要旨は下記のとおりです。

(文責編集部)

2016年度 講演会 講演の模様

印刷会社が取り組むブランド戦略

岩本 俊幸氏 (一般財団法人ブランド・マネージャー認定協会 代表理事)

講師=岩本氏講師=岩本氏

ブランディングとは、顧客にとって価値のあるブランドを構築する活動のことをいうが、絶対に変えてはいけないことがある。それは、消費者の心にメッセージとして届ける「約束事」である。それがあるからこそ、消費者にとっては商品探索コストの低減、価値の獲得、自己イメージの投影、購買行動におけるリスクの回避など、一方、企業にとっては商品・サービスの差別化、付加価値の向上、価格決定権の保持、知的財産権、社内の意思統一、社員モチベーションの向上、ビジネスパートナーの協力確保、採用活動の効率化といったメリットが得られる。

企業が「こう思われたい」というブランド・アイデンティティを、消費者や顧客が「こう思う」というブランド・イメージ(心象)と、的確なブランド要素とブランド体験を通じて一致させること。これがブランディング活動である。そのためには①一貫性を保ち②意図的に③継続的に取り組んでいくことが重要となる。そして、消費者や顧客の心のなかでブランド認知(思い出してくれる再認・思い起こしてくれる再生)される自社の「マインドシェア」を獲得していく必要がある。

ブランド戦略とは、経営理念・経営基本方針から経営戦略、マーケティング戦略を重ねて発生してくるものである。マーケティング戦略が売れる仕組みというなら、ブランド戦略は売れ続ける仕組みだといってよい。ブランド構築では、①環境分析による市場機会の発見→市場の細分化→見込客の選定と具体的設定→自社の立ち位置と独自性の発見→ブランド・アイデンティンティの確立と顧客への約束→マーケティング・ミックスによる具体化→刺激(ブランド要素・ブランド体験、行動指針)の設計→目標設定という8つのステップを踏まなければならない。

このステップが基本の型であることを理解するとともに、顧客との関係性の確立をつねに念頭に置き、ステップごとの一貫性を確認しながら進めていくことが大切である。誰のために何をどのように解決するのかという顧客視点でおこなうことがブランディングの本質であると心得たい。ブランドの存在意義やあるべき姿をブランド・ステートメント(文言)として明確に作成できたとしても、それはゴールでなくスタート台に立ったに過ぎない。

顧客のCSR向上支援、環境対応による企業のイメージアップ支援も問題解決の一つ、差別化できる付加価値の一つであることを意識して、以下に留意しながら取り組んでいってほしいと思う。

  • 印刷物を請け負うたんなる印刷業ではなく、顧客の問題解決請負業であることを前提に、顧客の悩みや課題を徹底的に傾聴すること。
  • 同業他社とは、必ず差別化できるポイントがあるのだから、徹底的に自社の強みはや優位性を顕在化すること。
  • 企業理念から一貫したブランド戦略を意図的に策定して、価格競争に陥らない経営を継続すること。
  • 変えるべきこと、変えてはいけないことを明確に定め、変化・進化させる必要がある事柄は、PDCAサイクルの徹底をはかること。

紙は環境にやさしい印刷素材

上河 潔氏 (日本製紙連合会 常務理事)

講師=上河氏講師=上河氏

紙は環境に悪いという不都合な誤解がある。例えば、①紙は木材から製造されるので、紙を使うと森がなくなる、②紙を大量に使うことは、ごみを増やすなど3Rに反している、③紙の製造には大量の化石燃料と木材を使うので、CO2の排出が増える―というもの。しかし、①木材は再生可能な非化石材でありCO2の排出にはつながらない、②リサイクルしやすい――という二大理由で、紙は環境にやさしいといってよい。このやさしさを消費者に伝えることが大切で、まずは安心して使っていただきたい。

日本の紙は、持続可能な森林施策により生産される木材から製造されている。伐採された森林は必ず再植林されていて、確実に更新される。このような循環サイクルで適切に管理されているので、森林がなくなることはない。日本の製紙産業では、①使用する木材がどこで伐採されどんな流通ルートを辿ってきたかについて、しっかりと追跡しているので、違法伐採による木材を一切使っていない、②使用する木材の持続可能性を担保するため森林認証に努めている、③間伐材や虫害材の利用などで資源の有効利用に努めている――ことをご理解いただきたいと思う。

製紙原料の6割以上が古紙(実質64%)、2割が植林材由来、5%強が製材残材由来(端材)と、紙は基本的に環境にやさしい材料なのである。原材料として使われるチップのうち、針葉樹系は端材を主体とし、そのほか間伐材、曲がり材、小径木が含まれている。また広葉樹系は植林材がほとんどを占め、残りは製材用途に適さない低質材からなる。

日本製紙連合会では「業界全体として違法伐採木材は使わない」と宣言し、木材チップなど原材料の流通および利用に関し、その合法性をつねにモニタリングしている。また「生物多様性の保全に積極的に取り組むことは、製紙産業としての当然の社会的責務である」と自認し、連合会として独自の行動指針を策定している。そのなかには、①CO2排出量の削減、リサイクルの推進、②持続可能な森林経営、森林認証の取得、③責任ある原料調達――といった項目を盛り込んである。

更新日:2016年12月26日