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【ご報告】平成27年度定時総会併催 記念講演会
「知っておきたい環境対応の新たな課題」―≪記念講演会≫で動向を学ぶ―

環境保護印刷推進協議会は平成27年6月26日午後、東京・神田小川町の「明治大学紫紺館」でおこなった平成27年度定時総会に合わせ、「知っておきたい環境対応の新たな課題」をテーマとする記念講演会を開催しました。会員企業の経営幹部、印刷関係者など約80名がこの講演会に参加し、環境行政の元締めである環境省、そして環境問題に関する第一級の研究機関である国立環境研究所から招いた専門家から、印刷会社がこれらの課題を真正面で捉え、いかに考えていったらいいのかについての有意義な話を聞くことができました。

今回のテーマは、①温室効果ガスの排出量抑制が義務づけられるなど、引き続き徹底したCO2削減と省エネ対策を求められること、②より厳しい調達基準が策定されるなど、印刷製品の納入を通じて、循環型社会の実現に寄与する環境配慮の姿勢を示していく必要があること――を踏まえて設定されたものです。

第1部は「グリーン購入法とプレミアム基準策定ガイドライン」と題し、環境省・総合環境政策局環境経済課の彌吉元毅課長補佐に、また第2部は「気候変動リスクと人類の選択―IPCCの最新報告から―」と題し、国立環境研究所・地球環境研究センター気候変動リスク評価研究室の江守正多室長に、それぞれ講演をお願いし、最新の動向をお教えいただきました。

第1部では最初に、グリーン購入法の目的と仕組みに関する説明があったなかで、国等のレベルでみると紙類、印刷サービスとも90%〜99%の調達実績を続けていることが紹介されました。ついでプレミアム基準の浸透状況について「現在は定着させている段階で、環境省から始めている。今後も趣旨に沿った取り組みを引き続き進めていく」との方針が示されました。

第2部では、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の評価報告書で問題提起された、地球温暖化への影響要因に関して詳しい解説がなされ、気温上昇を抑制ための対応策を早急に実施することの重要性が強調されました。CO2削減に当たっては、悪影響、好影響を含めた全体像を把握しながら、技術開発および社会変革の両面から「オープンな議論を重ねて最適な解決策を見出す必要がある」旨を示唆されました。

(この講演会は≪創立10年記念行事シリーズ≫第二弾と位置付けて実施しました)

講演の要旨は次のとおりです。(文責編集部)

プレミアム基準策定ガイドライン

第三者の認証で自己適合宣言できることが要件

市場のグリーン化の現状をみると、環境配慮の継続的な取り組みが必要なこと、環境意識と消費行動との間にギャップがあること、企業の取り組みが評価につながり難いこと――といった課題が挙げられる。これらを前提に、さらなるグリーン化に向けた施策を講じる必要性が出てきた。その基本的な方向性としては、①対象商品・サービスの新規開拓(選択の幅と機会をふやす)、②先進的な基準の設定(普及状況等に応じた基準の引き上げ、先進性による差別化)、③消費者に届く情報提供(気づきと共感)、④施策の連携と相乗効果――が考えられる。

平成27年度定時総会

新しいプレミアム調達基準はこのような状況下で策定されたものだが、その位置づけは、先進的でより高い環境性能、すなわち調達者として“胸を張れる”基準であること。現行のグリーン購入基準は調達の必要条件ではあるが、必ずしも先進的とはいえず“恥ずかしくない”基準に止まっている。そこから一段階レベルアップしたのがプレミアム調達基準なのである。

プレミアム調達基準の役割は何かというと、①市場を牽引する基準として需要側の行動を促す、②物品やサービスの差別化(例えばブランドの確立)など、供給側の行動を促す、③環境に配慮した事業者が正当に評価、選択されるための情報の提供や開示を促す――ことにある。事業者が提供できる情報のキーワードは、地球温暖化防止、低炭素社会の実現、省資源化、資源リサイクル化、大気・水・土壌等の環境負荷低減、といった環境保護政策への参画、協力である。

では、プレミアム基準の要件は何か。それは、①現行の判断基準の強化(重要なライフサイクル段階や個々の環境負荷項目)、②新たな評価軸の追加(同)、③自己適合宣言の強化/第三者による認証・確認(適切かつ徹底的な情報開示)、④他の環境施策との連携による相乗効果――となっている。

こうした諸要件を踏まえた基準設定の具体的な例を紹介すると、紙類(印刷用紙)では、原料段階および廃棄・リサイクル段階での環境負荷低減、森林認証材や間伐材など適切な原料構成などが考慮すべき事項となり、とくに上記③に関しては古紙パルプ等配合率の検証制度、それによる結果の公表、エコマークの認定か同等以上の物品、④に関してはカーボンフットプリント等の算定――が考えられている。

また印刷サービス(役務)では、印刷工程全般にわたる環境配慮(例えばグリーンプリンティング認定、環境マネジメントシステム認証の取得、環境/CSR報告書の作成と公表、カーボンフットプリント等の算定など)が考慮事項となり、上記の各項目でこれらの事項を実際の購入基準として適用するよう求めている。

※印刷工程全般にわたって環境配慮の要件を示し、自己適合宣言するのは個々の印刷会社であり、「信頼できる業界団体」として「一定水準を満たす」認証制度を提供している環境保護印刷推進協議会は、ここでいう「第三者」に当たります。提示された要件が新基準に適合しているかどうかを判断し、評価するのはあくまで発注者側となります。(編集部注)

気候変動リスクと人類の選択

技術革新と社会変革の両面から議論し解決策を

温室効果ガス濃度、世界平均気温、海面水位とも20世紀以降、急速に上昇していて、人為的起源を要因とする可能性が高い。温室効果ガスによる100年後の気温上昇量は、十分な対策を講じれば1℃前後に止まるが、何も対策を打たなかったら4℃前後にもなる。海面水位の上昇も同じように大きな差が出る。異常気象に関しても、極暑、熱波、大雨、干ばつ、高潮の発生頻度が、今後、高い確率で増えていくことが予想される。社会の発展の仕方はもちろん、その間に人類が講じる対策の如何に大きく依存していることになる。

平成27年度定時総会

地球温暖化に伴い人類が蒙るであろう主要なリスクは、海面上昇、洪水、台風、熱波、食糧・水の不足、海・陸の生態系の損失などで、固有の生態系や文化に対するリスク(懸念)レベルは、極端な気象現象の発生に関するより高いのである。水災害や水資源に関してすでに治水強化やハザードマップ作成などの適応策が講じられているように、気候変動の影響、損害を和らげるために、どの国もさまざまな対応策を多かれ少なかれ実施しなければならない。

気候変動枠組条約(COP)では「産業化以前からの世界平均気温の上昇を2℃以内の収める観点から、温室効果ガス排出量の大幅削減の必要性を認識する」との合意がなされている。気候変動対策の長期目標といえるが、この目標を達成するためには、エネルギー・産業起源の世界全体のCO2排出量を、2050年までに半減程度、今世紀後半にはゼロに近いかマイナスの水準にまで削減しなければならない。

今年末のCOP21(パリ)で、2050年までに70%程度の排出削減を期す新たな枠組みの合意をめざすが、各国が提出した目標案(日本の場合は2030年までに2013年比で26%削減)を合計しても、2℃目標には大幅に不足しているのが実情だ。

排出を削減する具体策としては、①省エネ(機器の高効率化、スマート化、行動、制度)、②再生可能エネルギー(太陽電池、太陽熱、風力、地熱、バイオマスなど)、③原子力、④火力発電の高効率化、⑤燃料利用の電化、水素化――などが考えられる。

気候変動および対策のリスクを考える際には、悪影響と好影響の両面から大局的に全体像を捉えなければならない。気候変動の悪影響では前述のような各要素が挙げられ、好影響としては寒冷地の温暖化に伴う健康や農業の好転などが考えられる。また対策の悪影響は経済コスト、原発など対策技術そのものがもつリスク、バイオマス燃料と食糧生産との競合、その他があり、好影響としては省エネ化の促進、エネルギー自給率の向上、大気汚染の抑制、新たな環境ビジネスの出現などが挙げられる。

そこで最後に解決のカギは?となるが、これらの影響を踏まえながら技術革新と社会変革という二つの視点から最適な解決策を見出していくべきだろう。例えば、革新的な技術の開発を待つとしても、それには実現可能性の疑問が付きまとう。再生可能エネルギーに関していえば、さらに技術開発が必要だという見方がある反面、今の技術でも社会の仕組みを整えれば、もっと浸透するはずだとする見解もある。省エネについても機器の効率改善をという意見もあれば、ライフスタイルの変革(物質的豊かさからの脱却)を求める声も聞かれる。“経済派”と“環境派” という二極に意見が分かれがちだが、自分の価値観をベースに一方的に主張するだけでなく、お互いにオープンな議論を重ねていくことが重要だろう。

(文責編集部)

更新日:2015年7月8日