環境保護印刷推進協議会では平成24年11月26日午後、東京・京橋の「TKP東京八重洲カンファレンスセンター」で、「今こそ取り組むべき《省エネ》の課題と対応策」と題する特別講演会を開催、会員はもとより、一般参加の印刷関係者を含む約80名が第一線有識者による印刷業界への“提言”に熱心に耳を傾けた。
この特別講演会は、東日本大震災の後、節電と省エネ化がこれまでにも増して強い社会的要請となり、設備レベルの節電対策から、工場設計や事業活動の仕組みづくりを含む省エネ対策へと、企業が求められる課題が高度化してきているのを捉えて企画したもの。この2年間、節電と省エネをテーマに勉強してきた当協議会にとって、一つの集大成ともいえる有意義な講演会となった。
この日の講演は、 (1)基調講演として「科学の目で考える合理的な省エネルギー対策」(講師=株式会社環境エネルギー総合研究所社長・大庭みゆき氏、 (2)実務研修として「トップマネジメントで進める節電・省エネ対策」(講師=東京都地球温暖化防止活動推進センター長・宮田博之氏)、 (3)視察報告として「欧州における環境保護の現状とエコプリント2012」(講師=社団法人日本印刷産業連合会 企画推進部国際担当・石橋邦夫氏)――の3部構成でおこなわれ、要旨、以下のような貴重な講演をそれぞれ専門的角度から聞くことができた。
科学の目で考える合理的な省エネルギー対策
需要ピーク時のデマンド(最大需要電力値)を下げるために、空調を気にする企業が多いが、密閉状態で24時間空調が必要な印刷工場では対応が非常に難しい。政府が提唱しているような節電メニュー(消灯の徹底、LED照明への交換、空調温度の適正設定、外気取り入れ量の調整、デマンド監視装置の導入など)では、それほど効果が上がらない。もう十分、節電されているし、これ以上の対応には無理があるような状況だろう。運用を気にするなら、生産や作業の効率を上げなければならない。
それより、建物全体の断熱設計、工場内のレイアウト、設備の配置、空調系統、従業員体制などの見直しの方が重要である。エネルギー消費量は、これらの条件次第で大きな影響を受ける。すでに省エネの努力によって一定の効果が出ているので、建物の構造を変えていかないかぎり、原単位はこれ以上、高まらないだろう。
省エネのポイントは「頑張る前に考える」にある。 (1)何をいつ、誰がどうやって頑張るのか、 (2)頑張るために費用、人、時間がどのくらい必要なのか、 (3)頑張った結果、何がどのくらいどうなったか――を考えることである。そのためには、現在、設備をどのような用途にどんな状況で使っているのかを把握することが前提となる。
動力系の設備にどうしても手をつけなければならないが、問題が起こっている対象、困っている場所に、大きな節電効果が隠されている。エネルギー消費の原因が掴めたら、個別に対策を講じることである。費用対効果を算出して、取り組み成果が大きく重要と思われ対象から、順次手を付けていけばよい。
問題点を分析するときは、ソフト面(使用方法、電力契約、メンテナンス)とハード面(設備機器、建物躯体、機器+建物)、および両者の組み合わせから検討していき、負荷の大きい対象を特定して手を付ける必要がある。
「エネルギーを管理する」とは、 (1)管理標準を作成する、 (2)管理体制を確立する、 (3)チェックシステムをつくる――ことである。設備の稼働や消灯などに関するマニュアルを作成して、社員の間でうまく回る仕組みをつくらなければならない。改善可能なものに着眼して、よくできたことを次々と繋げていけばよい。会社として持続可能なかたちを“見える化”して、社内に周知徹底すること。省エネとは“絞る”ことではなく、ポイントをどこに置いて、エネルギー効果をめざしていくかにかかっている。
トップマネジメントで進める節電・省エネ対策
エネルギーコストがどんどん高まり、新しいエネルギー政策が次々と打ち出されるなかで、企業経営者はこれから何をすればよいのだろうか? エネルギーコストの削減に視点を置き、利益を上げられるようにトップマネジメントで早期に対応していかなければならない。
経営者はまず短期的な視点から、エネルギー使用量を管理することによって、コストの増大を抑えなければいけない。事業所単位での節電や省エネ対策の推進などで、徹底した削減に取り組む必要がある。具体的には (1)エネルギーコスト削減のための省エネ支援策の活用(費用低減)、 (2)排出量削減量のクレジット売却によるCO2削減の経済的価値化(収益増大)――が考えられる。とくに、 (1)の支援策は運用改善(ムダ・ロスの排除)→設備改修→設備更新(高効率設備の導入)、さらに人材育成に活用できる。
中長期的な視点では、電力需給のバランスを意識したエネルギー管理が求められ、また、無理なく持続的な省エネをおこなう必要がでてくることから、建物自体や設備機器の省エネ性能を上げるとともに、エネルギーをより効率的に無駄なく賢く使うといった運用面での省エネ対策が重要になるだろう。
欧州における環境保護の現状とエコプリント2012
ドイツのベルリンでこの9月に開催された「エコプリント2012」は、持続可能な印刷ビジネスに焦点を当てた世界初の環境展で、製品の製造から印刷物の調達、コミュニケーションに関する分野まで、広くサステナビリティーの必要性が高まってきたことを背景におこなわれた。展示およびカンファレンスを通じてさまざまな情報が発信されたが、印刷業界が対応すべき課題が、とくにカンファレンスにおける発表内容から読み取ることができた。
その中で注目すべきは、リサイクルの過程で廃棄物を一切出さず完全循環をめざす「揺りかごから揺りかごへ」というモノづくりの新しい考え方、製品の設計段階から使用・廃棄した後までの完全リサイクルを意図する「サーキュラー・エコノミー」というさらに踏み込んだ概念が提唱されたことで、本格化する今後の動向には注意する必要がある。
また、印刷がサステナブルなかたちで提供されれば、流通業者は印刷物を採用する意向があり、プリントマネジメント会社はコスト削減の面だけではなく、環境負荷低減を“錦の御旗”に掲げて顧客提案するようになってきたという。
環境意識の高まりは、必ずしも紙や印刷を否定するものではなく、いかにサステナブルであるかを明確に打ち出すことによって、再評価につなげていく動きが必要となる。とくに、印刷とオンラインの比較では、長時間読む場合、印刷の方が環境負荷やCO2発生が小さいということも明確になっており、印刷のメリットを生かせる用途開発が重要になるだろう。
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