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【ご報告】「日欧・印刷環境フォーラム」メンバーズセッション
関連業界を縦断した共通の環境保護基準を

12月3日に開催した「日欧・印刷環境フォーラム」に先がけ、同日昼、講師に要請したマーティン・ユースタス氏を囲む懇談のひと時がもたれました。その場には環境保護推進協議会の役員有志が参席し、欧州と日本における環境問題をめぐって熱心な質疑応答を繰り広げました。意見交換の主な内容は以下のとおりです。

<文責・事務局>

日欧・印刷環境フォーラム

――環境にやさしい印刷を前面に打ち出している印刷会社は、まだまだ少ない。企業や官公庁が積極的に採用してくれるという状況にもないが、欧州ではどのような動きとなっているのか?

ユースタス氏 紙の森林認証などの環境ラベルが中心となっていて、それなりに浸透しているが、消費者がもっとも気にしているのは紙が造られる工程だ。印刷に関しても数多くの環境レベルが制定されているが、あまり浸透していない。EUのエコラベルもまだ確立しているとはいい難い。

――エネルギーコストが大きいこともあって、紙に関する環境対応への人々の関心が高くなっている。それに比べると、印刷に要するコストは極端に小さい。例え小さな意識であっても大切にしたいと思っている。

ユースタス氏 印刷会社が多過ぎ、しかも取得に要するコストがかかるため、思うように普及していないのが現状だ。印刷メディアという分野に特化すればするほど、メジャーにはなりにくい面がある。

――職場の作業環境、とくに労働衛生に関して欧州では厳しく規制されていると聞く。E3PAでは洗浄油などに厳格な基準を設けているが、日本の印刷業界全体をみると、現在は行政の指導を受けている段階にある……。

ユースタス氏 欧州でも印刷作業の安全基準に相当するものがあり、話題にのぼっている。E3PAでは、認証するとき審査しているのか? 測定基準をどう確定するのか?

――確かに数字的には確定しにくい部分がある。洗浄力を強くするとVOCが揮発しやすく、しかも引火しやすくなる。印刷現場では毎日、洗浄作業を繰り返しているので、楽に洗える方にどうしても向かってしまう。行政からも指導されているが、作業条件を満たす具体的な基準は確立されていない。一定の基準がないと、せっかく開発した洗浄油そのものが売れるという保証を得られず、なかなか確定するまでに至っていないのが実情だ。

ユースタス氏 紙以外に、印刷工程のなかで何がもっとも大きな環境影響要因なのか?

日欧・印刷環境フォーラム

――やはり、洗浄油からが発生することが大きい。

ユースタス氏 VOCを抑制するために決定的な対応策はあるのか?

――溶剤が入っていると洗いやすい。もっと適切なものを使うべきなのだが、まだまだ浸透していない。それでも日本の印刷業界では、インキ、湿し水にVOCを含めない方向にあり、紙にインキを載せるとき、いかにVOCを少なくするかに努力している。現に日本でつくられる印刷物の紙面は臭わない。

ユースタス氏 ミネラル(顔料)インキを使った印刷物をリサイクルするときに、そのインキが溶け出す。欧州では食品パッケージなどで厳しく規制している。この点、日本ではどうカバーしているのか? 紙の責任なのか印刷の責任なのか?

――いうまでもなく、UVインキを人間の体内に入れることはできない。とくに子供たちにとっては心配だ。

ユースタス氏 欧州の場合、洗浄油に限らず一般的に規制の基準が多過ぎて、不満が高まっている。時期的に見直しの気運にある。しかし、個々の印刷会社から新たな基準が提案されているわけではない。過剰な(水準の高い)基準に個別に取り組んでいる状況でもない。製紙工程が水資源や化学薬品などに厳しい規制を適用されているのに比べ、中小企業の数が多い印刷業界に対しては、格別に厳しい規制がかけられているわけではなく、他産業の一般的な企業に対する水準とそれほど変らない。ちなみに、デジタル印刷についてはどのように考えているのか?

――われわれはデジタル印刷も対象にしていて、認証制度を設けている。ヤレ紙が出ず、小ロットに対応できる。UVを使わず、自然乾燥でよい。環境に非常にやさしい印刷方式だと思う。

ユースタス氏 日本の印刷業界では、環境対応することによって、受注増大などビジネス上のアドバンテージを得られているのか? それとも、企業として社会的責任をもって環境保護に取り組んでいるのか?

――社会的な信用が高まっているという声を聞くことができる。経営する者として“プライド”が満たされる。認証基準を顧客に見せると感心されるし、取引関係から外されないようになる。「頑張って!」といわれると本当に嬉しい。官公庁に認証基準に適合していると伝えることで、営業がやりやすくなっている。

ユースタス氏 欧州にも、そのような考えで差別化に成功している印刷会社が少なからずあるが、全てというわけではない。規模の大きい企業になると、どうしてもボリューム(生産量/生産性)を追求しがちだ。印刷価格ではなく、環境貢献の姿勢を見せることで勝負できるはずだが……。

――まず、日本から環境対応の重要性について情報発信したい。外国にも意思を伝えたい。CO2の大量排出で地球は破壊されてしまう。人類も滅亡する。印刷業界は率先して環境づくりに取り組んでいかなければならない。製紙業界などを幅広く集めて「印刷物は環境に配慮したメディアである」ことを、積極的にPRしていく必要がある。製紙と印刷、出版関係者と一緒になってアピールしていきたいと思う。製紙業界においても紙の利点をもっとPRしてほしい。

ユースタス氏 紙についても印刷についてもさまざまな環境規制があるが、統一した共通の基準がなかなかつくられない。特定の業界団体が策定したものに止まっている。それぞれの業界が抱えている課題の方が優先されてしまう。極端なアカデミック主導で進めることなく、消費者を視点に入れた実態に即した基準をつくる必要があるだろう。

――われわれは、印刷業者という小さな立場から環境保護に取り組んでいるが、京都議定書の趣旨が守られないなど、肝心の大国で対応が遅れている状況に憂いを感じる……。

ユースタス氏 アメリカはつねに成長志向で、環境保護に税金を使うことに批判的な層がある。再生可能エネルギーに対する関心も低く、最低限でよいとする意見が強いようだ。一方の中国は発展途上にあり、諸国からの要請が甘いとしても止むを得ない。よりグリーンになりたいという様子が伺えるものの、現実的には対応できていないのが実情だ。本当の効果が得られるまで、どれだけ時間がかかるか判らない。欧州では、2050年の時点でCO2の排出量やエネルギー消費を50%に減らしたいとしているが、これも36年先を目標にした“安易な約束”でしかない。

更新日:2014年12月8日